子どもの身長が気になったら読む本
【著者】
野瀬 宰（野瀬クリニック 院長）
野瀬 まどか（のせ小児科クリニック 院長）
小児科専門医として低身長の治療にも数多く携わってきた著者が感じている「低身長に関する正しい情報が一般の方に知られていない」という現状から、わが子が小さいのではと気にされている親御さんに、お子さんの健やかな成長のための正しい知識、情報を得る一助になればと書かれた本です。
Step1 – 背が低いのは病気なの？
Q1. 背が低いのは遺伝だから仕方ないの？
A. 身長は確かに親の影響を受けますが、それだけで決まるものではありません。どのくらい伸びるのかは、両親の身長から大まかな予想はできますが、親より伸びる例もたくさんあります。
Q2. 背が低いのは何かの病気がかくれているの？
A. 背が低いことの多くは体質的なものなどにより、病気ではありません。ただし、極端に小さい、または伸びがどんどん小さくなっていく場合は病気の可能性もあります。
Q3. うちの子はクラスで一番前。これって低身長なの？
A. 低身長とは、一定の成長ラインを下回ること。他の子と比較して低いというだけでは低身長とはいえません。低身長かどうかを知るには、記録をつけることが必要です。
Q4. うちの子が低身長かどうかはどうすればわかる？
A. まずお子さんの身長を定期的に測り、記録をつける必要があります。背の伸び方を正確に記録するための、「測り方のポイント」を知っておきましょう。
Q5. 測った記録はどうすればいいの？
A. 成長曲線というグラフをつくります。これは生まれてから今までの背の伸びの程度をあらわすもので、低身長かどうかを判断するのに欠かせないデータとなります。
Q6. 生まれたときから小さいと、ずっと小さいまま？
A. 小さく生まれた子の8割以上は、3歳までに追いつくとされています。それを過ぎても小さい場合は、治療の対象になる可能性があるので、医療機関へ相談を。
Q7. 小さく生まれた場合、保険適用の治療が受けられるの？
A. 今の身長や、生まれた時点での在胎週数に対する身長・体重が、定められた基準より小さいなどの条件に当てはまると、SGA性低身長症と診断され、保険診療の対象となる場合があります。
Q8. SGA以外だと、いつの時点で低身長を疑えばいいの？
A. 3歳までは様子を見ましょう。それ以降、身長SD値がマイナス2SDを下回っていたら、出来るだけ早い受診をおすすめします。思春期を過ぎてしまうと治療の手立てがなくなります。
Q9. 小学校に入ったら、伸びが急に悪くなったような気が…？
A. 成長にはパターンがあり、一般に乳幼児期を過ぎると伸び方はゆるやかになります。ただし、あまりに伸び方が悪いと病気の可能性もあります。専門医を受診しましょう。
Q10. 思春期が遅いことと、背の伸び方は関係あるの？
A. あります。一般的に、低身長の子の4割は思春期が遅いことが原因といわれています。思春期を迎えれば伸びますが、開始時に低身長の子は、最終身長も低くなる傾向があります。
Q11. 思春期が早いことと、背の伸び方は関係あるの？
A. あります。思春期は骨の成熟を早め大人の骨にするので、早く思春期がくると、その間は急に伸びますが、早く止まってしまいます。特に極端に早い思春期の到来は要注意です。
Q12. 思春期の始まりはどうやってわかる？
A. 医療機関では、男の子なら精巣の大きさ、女の子なら乳房のふくらみで把握します。成長曲線をつければ一般の方でもだいたいの開始期間がわかります。
Q13. 思春期が終わるとどうして背は伸びないの？
A. 背が伸びるとは、骨と骨の間にある軟骨組織が増え、背が伸びることをいいます。思春期が終わると、軟骨組織がすべて骨に置き換わるため、それ以上伸びなくなるのです。
Q14. 背を伸ばす治療があると聞いたけど…？
A. 医療機関での検索で成長ホルモンの投与が有効と認められた場合は補充療法が行われます。早熟やおくてにたいしては、思春期の時期をずらす治療法が検討されることも。
Step2 – 病院に行ったら何をするの？
Q15. 低身長かも。どこを受診すればいいの？
A. 低身長の専門性が高い医療機関を受診しましょう。成長科学協会の地区委員であることも、医師選びの参考に。製薬会社のサイトや患者会も情報収集に役立ちます。
Q16. 受診をする前に、準備するものは？
A. 母子手帳と今までの身長の記録は必ず持参を。問診で出生時の状況や乳児期の栄養状態、既往歴などを伺いますので、あらかじめメモなどにまとめておくとよいでしょう。
Q17. 初診ではどんな診察や検査があるの？
A. 問診や診察、血液・尿検査などで低身長の原因となる病気の有無を調べます。また、骨端線が閉じているとこれ以上背は伸びないので、手のX線検査で骨年齢も調べます。
Q18. 再診ではどんな検査をするの？
A. 初診時の検査結果から、さらに詳しく調べる必要があると判断された場合には、画像検査や成長ホルモンの分泌状態を調べる検査をします。ホルモンの検査は、日を変えて最低2回行います。
Q19. 低身長の治療にはどのようなものがあるの？
A. 成長ホルモンの分泌が不足していることがわかれば、「成長ホルモン補充療法」の対象になります。これは、一定量の成長ホルモン製剤を毎日、自己注射で補う治療法です。
Q20. 自己注射って不安。痛くないの？
A. 自己注射による大きな事故の報告は今までにありません。最初に医療機関から、やり方の詳しい説明がありますし、注射器も簡単かつ安全に扱える設計になっています。
Q21. 治療の副作用の心配はないの？
A. 成長ホルモンはもともと体内にあるもので、投与量も不足分の補充程度なので、副作用の心配はまずありません。むしろ、子どもの意欲低下が治療の中断を招きやすいので注意を。
Q22. 治療にはどのくらいのお金がかかるの？
A. 成長ホルモンの投与量に応じて、3割負担でも月5万〜10万円程かかります。一定の条件を満たせば、公的機関の各種助成制度の対象となり、負担額が軽減されます。
Q23. 治療はいつまで続ければいいの？
A. 成長ホルモン療法の効果が望めるのは骨端線が閉じるまで。治療は長期戦となります。ただし、公的補助を受ける場合、一定の身長に達するまでという適用条件があります。
Q24. 治療を受けている間、通院はどのくらい必要？
A. 治療開始後1年程度は、治療の効果をみるため本人は3カ月に1度は通院を。その後も骨年齢の測定や思春期到来の予測・確認のために半年に1度は検査通院するのが望ましいです。
Q25. セカンドオピニオンは受けた方がいいの？
A. 治療方針について、別の医師の意見も聞きたいという希望があれば、受けるのもよいでしょう。ただ、納得がいかないからといくつもの医療機関をはしごするのは感心できません。
Step3 – 治療できないときは生活習慣の見直し
Q26. 牛乳をたくさん飲めば、背は伸びるの？
A. いいえ。牛乳に含まれるカルシウムは大切な栄養素ですが、骨を強くする働きはあっても伸ばす働きはありません。飲み過ぎると肥満の原因になることも。
Q27. うちの子は少食。無理にでも食べさせるべき？
A. 無理強いすると、食事自体が苦痛となり逆効果。食べられる量には個人差があるので、少食でも心配しすぎないように。楽しく食べられるような工夫も大切です。
Q28. 「寝る子は育つ」はホントなの？
A. 本当です。成長ホルモンは寝入った直後、眠りが深くなったときにもっとも多く分泌されることがわかっています。寝る時間帯よりも「ぐっすり寝る」ことの方が大事です。
Q29. ぶら下がり器具で背は伸びるの？
A. ぶらさがっても背は伸びません。背骨の骨と骨の間が少し広がる可能性はありますが、一時的なもの。同様に、ストレッチやヨガで背が伸びることもありません。
Q30. バスケやバレーで背は伸びるの？
A. いいえ。運動は成長にとって良いことですが、特定の競技で背が伸びることはありません。これらの競技に長身が多いのは、長身の人が集まっているからです。
Q31. 生活習慣に気をつければ背は伸びる？
A. 子どもの成長にとって栄養、運動、睡眠などの生活習慣は大事。しかし見直しただけでぐんぐん背が伸びるとはいえません。あまり神経質になるとストレスのもとに。
Q32. お金さえ出せば、保険適用外でも伸ばせるの？
A. 海外では成長ホルモンの大量投与で背が伸びた例もありますが、有効性や安全性は保証されていません。なお、骨端線が閉じた後ではいかなる方法でも背は伸びません。
Q33. 背が低いことを受け入れ、付き合っていくには？
A. まず家族が、身長は顔立ちなどと同じ「個性」の一つであるという認識を。うまくいかないことを何でも背丈のせいのするといった「劣等感」を持たせないことが何より大事です。
Q34. ネットで見かける背を伸ばす薬って効くの？
A. まったくのでたらめ。治療に使われる成長ホルモンの注射以外は、有効とされる医学的根拠がありません。怪しい情報に飛びつく前に、信頼できる医療機関へ相談を。
Q35. アルギニンやカルシウムのサプリメントで背が伸びる？
A. 背を伸ばすサプリメントは今のところありません。サプリはあくまで食品。栄養バランスを整えることで、健康維持を目指すものです。宣伝に惑わされないように。
Q36. 大人になっても背が伸びる方法があるってホント？
A. ウソです。思春期が過ぎ、骨端線が閉じてしまうと、どんな方法でも背は伸びません。大人でも背が伸びるという宣伝は悪徳商法の可能性大。気をつけましょう。
Q37. サプリメントや民間療法で背が伸びた体験談はウソ？
A. 体験談はあくまでこじんの体験や実感であり、客観的に効果が証明されているものではありません。効果のありそうなものなら、もっと積極的に研究が進められるはずです。
Q38. 間違った情報と正しい情報は、どう見分ければいい？
A. 保険診療で行うホルモン治療以外で「背が伸びる」とうたわれているものはすべて間違った情報の可能性が高い。迷ったら成長科学協会認定の医療機関に相談を。
Column1 – 脚を伸ばす手術があるってホント？
脚を長くすることで身長を高くする手術は、実際にあります。骨折するとその断面から新しい骨がつくられるというメカニズムを応用したもので「脚延長術」といいます。
この手術ではまず、脚の骨を人為的に骨折させ（骨切り）、その部分に器具を取り付け、少しずつ骨折部分を広げます。そして、広がった部分に新たな骨がつくられるのを待ちます。
半年程度で骨がつくられたら、器具を取り去るために再手術を行います。その後数ヶ月程度のリハビリが必要となります。この手術で延長できる長さは個人差がありますが、だいたい数cm〜10cmです。低身長の人にとっては、たとえ数㎝でも、と思うかもしれませんが、リスクもたいへん大きな治療法です。
回復までの1年近くは車椅子や松葉杖が必要となり、今までどうりの生活はできなくなる上、骨が思うようにつくられず、手術をしてもほとんど伸びない場合があることや、左右の脚の長さが違ってしまう、自然な歩行ができなくなるなど後遺症も覚悟しなくてはなりません。
現在は、おもに軟骨無形成症により極端に手足が短い症例に対してのみ検討されます。誰でも背が高くなる、という軽い気持ちで受けられる手術ではないことを覚えておきましょう。
Column2 – ターナー症候群ってどんな病気？
ターナー症候群とは、女性だけに見られる先天的な疾患で、性染色体のXXが、何らかの原因で一つ欠けたり、部分的になくなったりするなど、構造のの一部に異常が生じることで起こります。発生頻度は女性の1000〜2000人に1人で、先天的な疾患のなかでは多いとされています。
ターナー症候群では肘から先が外側を向く（外反肘）、首の周りに皮膚のたるみがある（異状頸）などの外見的特徴が見られ、低身長もその一つです。ただし、特徴の見られ方には個人差が大きいこともわかっています。
また、ターナー症候群では多くの場合卵巣の萎縮があり、思春期のころになっても二次性徴が自然に起こらず、妊娠出産も難しいとされています。思春期にスパートがかからないまま最終身長となってしまうのです。よって、ターナー症候群はできるだけ早期に診断し、成長ホルモンや性ホルモンによる治療を開始することが望ましいとされています。
ターナー症候群の低身長に対しては、成長ホルモン分泌不全性の低身長と同様に、成長ホルモン療法が行われます。自己注射による投与で、基本的に骨端線が閉じるまで続けられます。無治療の場合、最終身長の平均は141㎝前後ですが、成長ホルモン治療をすれば最新のデータ（2008年・国立成育センター）では149、3㎝という報告があります。
Column3 – 愛情不足も身長の伸びを悪くする！？
背の伸びには、子どもの心理状態も実は大きく関わっています。たとえ食事や睡眠、運動面で不足がなくても、「保護者の愛情」が感じられないと、子どもは精神的に大きなストレスを抱え、成長ホルモンの分泌にも悪影響を及ばすと考えられています。家族関係の問題により子どもが保護者からの愛情を長期にわたって受けられずに、成長が妨げられた状態を、医学的には「愛情遮断症候群」といいます。
実際に、10歳時でマイナス2.0SDを下回る低身長の子どもが、虐待を受けていたことがわかり施設で保護したところ、急激に背の伸びが良くなり、最終身長は平均にほぼ近いラインまで至った、という例もあります。
明らかな虐待がなくても、常にプレッシャーをうける、気持ちを受け止めてもらえないなど、子どもが安心して暮らせる環境が整っていないと、発育が悪くなる場合もあります。
夫婦仲といった家庭内の人間関係も大きく影響します。両親が不仲の様子を見ていれば、子どもは情緒不安定になります。そのために食欲が落ちたり、眠りが浅くなったりすれば、体への悪影響はさらに大きくなってしまいます。
子どもの健やかな成長のためには十分な愛情とリラックスできる家庭環境が大前提といえるでしょう。